アイスバイン

昼の蕎麦屋での話からね。50代くらいかなあ。店内の空気がぜんぶ吸い尽くされるんじゃないかくらい勢いよく蕎麦をすすってたスーツ姿の男性。すする音が突然ピタッと止んで代わりに男性の声が聞こえ始めたの。年取るとなぜ心の声を言葉として発してしまうのか。ぼくも最近そういう傾向にあるから決して責めるつもりはないよう。

「あれっあれっ、ないなあ、なんでだろう」

つぶやきながら焦った様子でバタバタとポケットをまさぐってる。結論からいえばなかったのは薬だった。別に大したオチにはならなかったんだけど、こっちは勝手に財布だと思いこんでたから。みんなそう思ってたはず。男性が薬忘れてきたわと言いながらお金を店員さんに渡したとき店内のみんなで本当に「ほっ」という優しい音を共有できた感があった。

さて、ベルリンのこと。滞在中、最も気に入った食べ物はケバブだった。

ケバブ

ケバブ

ケバブを無性にほうばりたくなる瞬間ってそんなに訪れないけど、ベルリンならそんな突発的なケバブ欲にも困らないくらいその辺にケバブ屋が存在してる。

僕の足による市場調査だと平均3.5ユーロくらいだったかな。ボリュームはマックス。野菜もデフォルトがマシなので毎日食べても健康面で罪深い気持ちにもならなくて済む。ベルリン経験者はもれなくケバブ推しなのでぼくも自信を持っておすすめできる。でも本心から試してほしいのはこれ。

アイスバインとかいう肉のお化け

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ギャートルズ時代を彷彿させる独特なフォルム。塩漬けした豚足を油へ深く落とし揚げた一品でとにかくフォトジェニック。どんな角度から撮っても存在感にブレが出ない。かぶりつくには巨大すぎるのでナイフで解体の作業が必須。ナイフをぶっ刺すたびに迫力のある格闘シーンを写真におさめたくなる。

食べる途中

 ぶった切った肉の怪物を接写

アイスバインを接写

この断面を見て思いつくひとことを聞かれたら「肉」と答える。この断面を30文字で表現しなさいと面接で問われたら正解はこれ。

肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉

ところが一口食べたら肉というよりも塩の塊だった。めちゃくちゃしょっぱい。肉の文字の代わりに頭の中には塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩塩という始末。

このお店はアイスバインの名店でまわりのお客さんは全員漏れなく同じアイスバインを食べてた。不思議過ぎる。みんなしょっぱくないのかな。店員さんが料理と一緒に塩と胡椒の小瓶を置いていった。使う人いるの?

塩っ気に本当に生命の危険を感じたよ。ぼくらだけがしょっぱがっているのでアジア人を狙ったソルトテロかもと疑うくらい。血圧が跳ねて血管きれたらどうしようかと思ったもの。

もし経験者がいればあの塩っけが正解なのかを尋ねたい。付け合わせのイモとかキャベツをぐちゃぐちゃに一緒くたにしてやっとここまでたいらげられたんだから。

食べ終わった様子